大判例

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東京高等裁判所 平成2年(ネ)465号 判決 1990年8月27日

控訴人 株式会社 大山商事

右代表者代表取締役 大山良信こと 李良信

右訴訟代理人弁護士 駒場豊

被控訴人 小田急建設株式会社

右代表者代表取締役 鷲崎彦三

<ほか三名>

右四名訴訟代理人弁護士 加茂隆康

主文

一  原判決中被控訴人小田急建設株式会社及び被控訴人中村剛に関する部分を取り消す。

二  被控訴人小田急建設株式会社及び被控訴人中村剛は、各自、控訴人に対し、金二八万六〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  控訴人の被控訴人小田急建設株式会社及び被控訴人中村剛に対するその余の請求を棄却する。

四  控訴人の被控訴人株式会社ライオン事務器及び被控訴人富本治に対する控訴を棄却する。

五  訴訟費用は、控訴人と被控訴人小田急建設株式会社及び被控訴人中村剛との間では、第一、二審を通じ、右当事者間に生じた費用を六分し、その一を右被控訴人両名の負担、その余を控訴人の負担とし、控訴人と被控訴人株式会社ライオン事務器及び被控訴人富本治との間では、右被控訴人両名について生じた控訴費用は控訴人の負担とする。

六  この判決の主文第二項は、仮に執行することができる。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人らは、各自、控訴人に対し、金一七五万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年一〇月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(三)  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

本件控訴を棄却する。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、原判決事実摘示(ただし、原判決書二枚目裏末行の次に、行を変えて「甲車の所有者 被控訴人小田急建設株式会社」を、同三枚目表三行目の次に、行を変えて「乙車の所有者 被控訴人株式会社ライオン事務器」を、同九行目「被告中村は、」の次に「本件事故当時被控訴人小田急建設株式会社の業務のために甲車を運転していたが、」を、同裏四行目「被告富本は、」の次に「本件事故当時被控訴人株式会社ライオン事務器の業務のために乙車を運転していたが、」を、それぞれ加える。同裏初行「(2)②の事実は」を「(2)②の事実のうち、被控訴人富本が本件事故当時被控訴人株式会社ライオン事務器の業務のために乙車を運転していたことは認め、その余の事実は否認ないし争う。」に、同四行目「争い、その余は認める。」を「争う。」にそれぞれ改める。)のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求原因1の事実、同2(1)の事実は当事者間に争いがない。したがって、被控訴人小田急建設株式会社は、民法七一五条、七〇九条に基づき、被控訴人中村は民法七〇九条に基づき、それぞれ控訴人が受けた後記の損害を賠償する責任があるといわなければならない。請求原因2(2)①の事実、同②の事実のうち、被控訴人富本が本件事故当時被控訴人株式会社ライオン事務器の業務のために乙車を運転していたことは当事者間に争いがなく、また、転回しようとした甲車が対向してきた乙車の側面に衝突し、その結果、乙車が被害車の後部に追突したことは前記のとおり当事者間に争いがないけれども、右事実から直ちに被控訴人富本に控訴人主張の過失があるということはできず、その他右主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがって、控訴人の被控訴人株式会社ライオン事務器及び被控訴人富本に対する請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がない。

二  控訴人の損害について判断する。

1  本件事故による被害車両の修理代として五四万一二〇〇円を要したこと、被控訴人小田急建設株式会社が控訴人に対し修理代五四万一二〇〇円を支払ったことは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、被害車両のベンツは昭和六〇年型車で、総排気量は四九七〇ccであることが認められる。被控訴人らは、修理代のうちバンパーの金メッキ代一四万八〇〇〇円について本件事故との相当因果関係を争うので、この点について検討する。先ず、《証拠省略》によれば、損傷を受けた被害車両のリアバンパーを金メッキをした同種のものと取り替えるため、新品のバンパーに金メッキする費用として一四万三〇〇〇円を要したことが認められる。被控訴人らは右損害は控訴人固有の特別の損害であると主張するけれども、控訴会社が使用していた被害車両には金メッキを施したリアバンパーが取りつけられていたのであって、本件事故によりこれに損傷が生じ、同種の金メッキを施したバンパーと取り替えざるを得なかったのであるから、それに要した費用は本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当であり、被控訴人らの主張は採用することができない。しかし、そもそもバンパーは、交通事故が発生した場合に、自動車本体の損傷及び塔乗者の死傷を防止もしくは軽減させることを目的としているのであり、バンパーに金メッキを施すことはその効用を増加させるものではなく、かえって、損傷した場合の修復費用を増大させ無用に損害を拡大させるものであることを考慮すると、控訴人も損害の拡大について一つの原因を与えたことは否定し得ない。したがって、過失相殺の法理により損害額を算定するに当たり控訴人の右行為を斟酌することができるというべきである。以上の事実に基づいて判断すると、被控訴人小田急建設株式会社及び被控訴人中村には、金メッキ部分の修理代一四万八〇〇〇円のうち五割を減額し、七万四〇〇〇円を負担させるのが相当というべきである。

2  次に、代車の賃借料について検討する。

控訴人は、本件事故により控訴人所有のメルセデス・ベンツを修理したので、その修理期間中、別の車両を借りる必要が生じ、被害車両にはテレビ及び自動車電話が設置されていたので、代車についても同様の設備を備えたメルセデス・ベンツを借りると、その賃借料は一日当たり四万五〇〇〇円を要すること、賃借期間は被害車両の修理が五月の連休に重なり、また、バンパーの金メッキを修理するために長くなり、代車の賃借期間は三九日となったから、代車の賃借料は一七五万五〇〇〇円であると主張する。

《証拠省略》によれば、控訴人はカレージ三〇五という名称で中古自動車販売業を営む久保和郎から被害車両の代車としてテレビと自動車電話を備えたメルセデス・ベンツ(昭和五七年型車で、総排気量四五二〇cc)を同月二五日から同年六月二日まで三九日間借り受けたこと、そのため同人からその代金として一日あたり四万五〇〇〇円、合計一七五万五〇〇〇円の請求を受けていることが認められる(一方、前掲甲第六号証の請求書には、「示談を前提としての請求額である。」と記載されており、控訴人と久保和郎間に示談が成立してはじめて請求金額が確定するものとも考えられ、右請求の趣旨は必ずしも明確ではない。)。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

被害車両は本件事故により乙車に追突され、車両後部右側部分が凹んで損傷を受け、リアバンパー、右テールランプ、エンドパネル、右リアフェンダー等の修理のため三九万三二〇〇円を要した。しかし、被害車両に設置されていたテレビと自動車電話は何ら損傷を受けなかった。久保和郎は、昭和六三年四月二五日ころ控訴人から被害車両の修理を依頼され、金メッキ部分以外の修理をさらに同月二八日東京都町田市所在のりそう自動車に依頼し、同年五月一四日その修理は終わった。後はバンパーの金メッキ部分の修理を残すのみとなり、被害車両はヤナセ横浜支店に預けられたが、それは新たに取りつけられるバンパーの金メッキができあがるのを待つためであった。バンパーの金メッキ部分の損傷はセンターバンパーとサイドバンパーとのつなぎ目がやや波を打っている程度であり、りそう自動車における修理が終わった段階では、やや離れた所から被害車両を見ると、損傷部分はほとんど分からず、運行にも何ら支障はなかった。金メッキをしたバンパーの交換それ自体は一日あれば十分であったが、バンパーの金メッキのために相当の時間がかかり、バンパーの金メッキ部分の修理が完成したのは同年六月中旬か後半ころであった。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によって、代車の必要期間を考えると、りそう自動車の修理は昭和六三年四月二八日から同年五月一四日まで一七日間を要して終了し、終了時点では、もはや被害車両は通常の走行をするのに支障はなくなったというべきであり、また、バンパーの金メッキ部分の修理についても、バンパーの金メッキが完成した時点でバンパーの交換をすれば足り、その期間も一日とみるのが相当であるから金メッキに要した期間全部を代車の必要期間と認めることはできない。一方、控訴人もバンパーに金メッキを施して損害の拡大について一つの原因を与えたものであり、過失相殺の法理により損害額を算定するに当たり控訴人の右行為を斟酌することができることは前示のとおりであるから、このことをも斟酌すると、代車の必要期間は同年四月二八日から同年五月一四日までの一七日間とバンパーの交換に必要な一日の合計一八日間とするのが相当である。なお、久保和郎が被害車両の修理の依頼を受けた同年四月二五日からりそう自動車に修理の再依頼をした同月二八日までの期間については、りそう自動車に修理を再依頼するのが遅れた事情が被控訴人らにあることを認めるに足りる証拠はないから、同月二五日から二七日までの三日間を代車の必要期間に含ませることも相当ではないというべきである。

次に、《証拠省略》によれば、控訴人が賃借したベンツの賃借料は一日当たり二万円と認めるのが相当である。《証拠判断省略》

3  控訴人は、テレビと自動車電話の賃借料として一日当たり一万五〇〇〇円を請求し、《証拠省略》によれば、テレビと自動車電話の賃借料として一日当たり一万五〇〇〇円が相当である旨供述するけれども、その算出根拠については明確な供述はなく、右供述部分は必ずしも措信することはできないというべきであり、その他テレビと自動車電話の賃借料に関する控訴人の主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、控訴人のテレビと自動車電話の賃借料に関する請求は理由がないというべきである。

2  以上のとおりであるから、被控訴人小田急建設株式会社及び被控訴人中村は、各自、被害車両の修理代四六万七二〇〇円及び代車の賃借料三六万円(一日二万円、賃借期間一八日間)合計八二万七二〇〇円を損害賠償として支払う義務があるところ、被控訴人小田急建設株式会社が控訴会社に対し五四万一二〇〇円を支払ったことは前記のとおり当事者間に争いがないから、右被控訴人両名は、各自、控訴人に対し、本件事故による損害賠償金二八万六〇〇〇円及びこれに対する本件事故の後である昭和六三年一〇月一四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。それゆえ、控訴人の右被控訴人両名に対する本訴請求は右の限度で正当として認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。

三  よって、原判決中右と異なる被控訴人小田急建設株式会社及び被控訴人中村に関する部分を取り消し、控訴人の右被控訴人両名に対する本訴請求は右の限度で認容し、その余を失当として棄却し、控訴人の被控訴人株式会社ライオン事務器及び被控訴人富本治に対する控訴は理由がないから棄却することとし、民事訴訟法三八六条、三八四条、九六条、九五条、九二条、八九条、九三条一項本文、一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山口繁 裁判官 根本眞 安齋隆)

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